2010年代邦楽フェイバリットアルバム50【35~21位】

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の続きです。

 

35.藤原さくら『PLAY』(2017)

PLAY

PLAY

  • 発売日: 2017/05/10
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筆者が中高時代を過ごした2000年代、「ロハス」とか「ナチュラル」みたいな言葉の流行に呼応するように、生楽器の音が強調されたポップスがよく流れていました。本作はそんな時代のポップスを思い出させるとともに、サウンドプロダクションもノラ・ジョーンズに影響を受けた歌も今のポップスらしく垢抜けていて、「J-Popの正統な進化系」と感じられるアルバムです。特にスピッツのカバー "春の歌" は傑作。全体的にそれまでの作品よりも厚めのアレンジですが、ピアノの弾き語りに近いスタイルで「消えないのにね 過去は」「明日からやり直せばいい/なんて/言わないで 言わないで」とブルージーに呟く "play sick" なんかも良いです。

どちらかというとEPの扱いなので外しましたが、翌年出した『green』『red』も推したい。『PLAY』でドラムを叩いているmabanuaがプロデュースしており、打ち込み中心のより幅広い内容となっています。

 

 

34.The ピーズ『アルキネマ』(2012)

アルキネマ

アルキネマ

  • 発売日: 2016/02/19
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2012年に7年ぶりに出たアルバムですが、2007年頃から断続的にリリースされていたシングル曲の再録が結構多いです。そのためもあって、ロックバンドではよくある「1か月で録りました」という感じのアルバムにはない練度が曲にあります。

The ピーズ、筆者はかなり最近になってハマったのですが、よく取り沙汰される歌詞はもちろんのこと、綺麗に着地することを避けるようなメロディも大きな魅力ではないでしょうか。「トロピカル」のような、ルーズな演奏で短いフレーズを繰り返す感じの曲で胸に引っかかりを残せるのはすごい。もともと日本のパンクが好きな方以外でも、ザ・キンクスとかペイヴメントとかが好きな方、一聴してみては。

 

 

33.PUNPEE『MODERN TIMES』(2017)

MODERN TIMES [Explicit]

MODERN TIMES [Explicit]

  • 発売日: 2017/10/11
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PUNPEEの最初のソロアルバム。古くからのファンの間では2012年に2000枚限定でリリースされたMIX CD『MOVIE ON THE SUNDAY』が実質的な1stアルバムとして聴かれているようですが、現在高騰しており自分は未聴。

本人の見た目通り、自分含め「ヒップホップに興味はあるけど怖い人が多くてちょっと」という「文化系」リスナーに優しいヒップホップですが、たとえば弟の5lackがどこか素っ気ないのに比べても(こちらも大好きですが)とにかくサービス精神の旺盛さに驚かされます。歌詞や本人の発言、ファンのブログなどを見れば見るほど、ヒップホップネタや映画ネタなどの小ネタや謎が仕掛けられているのがわかり、読み解くのが楽しいアルバムです。好きなものを詰め込んだということなのでしょうが、結果として長く聴くことができ、かつ島の外にいる人々にもアピールするアルバムになっているのが見事。

 

 

32.トリプルファイヤー『スキルアップ』(2014)

スキルアップ

スキルアップ

  • 発売日: 2018/11/08
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世の中にあふれたクリシェを拾い上げ、脱臼させてしまうかのような歌詞が痛快。"スキルアップ" は工場での作業がモチーフになっていますが、その空虚さは人生の中のどんな作業に当てはめても破壊力をもちます。いがらしみきお榎本俊二のような不条理漫画のセンスを感じるのですがどうでしょうか。一方でこの「脱臼感」は、楽器隊の黒子のように無機質な演奏に吉田の身体性が乗ることで成り立つ、ある種の演劇性をもったものです。

2010年代は世の中がどんどんシリアスになっていったと同時に、カルチャーの持っていたシリアスさがどんどん脱臼されていった時代だなと感じています。それは確かに痛快であったけれど、これから乗り越えなくてはならないものなのだろうなとも。

 

 

31.lyrical school『BE KIND REWIND』(2019)

BE KIND REWIND

BE KIND REWIND

  • 発売日: 2019/09/11
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女性ヒップホップアイドルユニットの5thアルバム。3rdと4thの間でメンバーががらりと変わったりといろいろ苦労していそうな印象ですが、貴重なアイドルラップ枠として良い曲を出し続けているのでもっと評価されていいグループ。

メンバーチェンジ前の方がアイドル然としてはいたのですが、ラップのスキルは断然上がっていて "Enough is school" "Tokyo Burning" のようなトラップっぽい曲も違和感なく聴かせます。お家芸の明るいサマーチューンも健在でアルバムとしての完成度はいまのところ最高ではないでしょうか。

 

 

30.スピッツ『醒めない』(2016)

醒めない

醒めない

  • 発売日: 2016/07/27
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草野マサムネが3・11のショックで倒れてからの復帰作である前作『小さな生き物』には励まされましたが、一曲一曲の完成度ではこちらでしょうか。前作に引き続き詰め込みすぎないミキシングで気持ちよく聴くことができます。近年あえて盛り込まれているように感じる、歌謡曲っぽいクサいフレーズは好き嫌いの分かれるところですが。

『小さな生き物』では、「居場所があんのかわかんねぇ/美しすぎるクニには/シカトされてもはぐらかされても/茶碗で飲みほすカフェラテ」なんて珍しく体制批判にも捉えられる歌詞がありました。本作でもラブソングに混ざって、明確に自分の外側に戦うべき相手が設定された歌詞が聴かれます。震災以後の政治や社会の変化を目にして、より外的世界と対峙した詞作がなされるようになったのでしょうか。"SJ" にいたっては、「夢のかけらは もう拾わない 君と見よう ザラついた未来」と、前向きでありつつもこれまでの夢見がちな詞世界を否定しかねないフレーズが耳に残ります。

とはいえ、スピッツらしい隠喩に満ちた言い回しで、多用な読解に開かれた表現に仕上がっているのはさすが。

 

 

29.THE NOVEMBERS『ANGELS』(2019)

ANGELS

ANGELS

 

結成13年目のオルタナティブロックバンドの7枚目。本作ではインダストリアルな電子音を大胆に取り入れ、トレードマークであるシューゲイザーハードコアパンク直系の暴力性をさらに加速させています。

シューゲイザー×インダストリアル、しかもゴスっぽいとなればカーヴ(Curve)という先駆者がおり、実際『ANGELS』を聴いていてカーヴを想起する箇所もあります。しかし、M3、4、8のように80年代ニューウェイヴへの参照を隠さない楽曲といい、ロックバンドの形式を保ちつつスタジオ音源ではDTMしまくっているというスタイルといい、むしろ比較すべきはテーム・インパラでしょうか。まだ彼らのライブには行けていないのですが、このアルバムの曲をどう再現しているのかちょっと見てみたいです。

 

 

28.ザ・なつやすみバンド『パラード』(2015)

パラード

パラード

  • 発売日: 2015/03/04
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東京インディーという言葉の流行とともに、にわかに注目を集めた楽器がスティールパンです。そもそもこの楽器は、トリニダード・トバゴでドラムの使用を禁止された黒人たちが、アメリカ軍の置いていった石油缶を使って作ったという逸話もあるように、西洋から非西洋への搾取とエキゾティシズムを象徴する楽器と言えるのではないでしょうか。細野晴臣が「黄金の国ジパング」としての日本とカリブ諸国を重ね合わせながらこの楽器を使ったときも、そういう皮肉な含みがあったはずです。

ザ・なつやすみバンド、あるいはそのメンバーであるMC Sirafuが客演したceroやVIDEOTAPEMUSICにおけるスティールパンの使われ方は、もう少し素朴に、郷愁や「ハレ」の気分を効果的に表現するものと言えるでしょう。一方でその音色は、かつて豊かだった日本、イメージの中にしかない楽しい東京、もうやってはこない夏休み……そういう不在性をほんのりと感じさせます。

初期のむせ返るほどのピュアさから少しポップに寄った『パラード』ですが、ブラジル/ラテン音楽をJ-Popに落とし込んだ名盤です。ポップさに反して、盛り上がりどころを繰り返さない複雑な曲構成のおかげで、良い意味でお腹いっぱいにさせません。

 

 

27.Pizzicato One『わたくしの二十世紀』(2015)

わたくしの二十世紀

わたくしの二十世紀

  • 発売日: 2015/06/24
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西寺郷太小泉今日子などの豪華なシンガーをフィーチャーし、小西康陽が自身の過去作を再アレンジ。 ピチカート・ファイヴの初期から後期、解散後に他のアーティストに提供した曲がバランスよく並んでいますが、テーマの一貫性に驚かされます。原曲の華やかなアレンジにコーティングされていた、孤独や別れ、死といったテーマが、削ぎ落されたアレンジによってこれでもかと前面に出ています。特に2017年に亡くなったムッシュかまやつが「もしもゆうべ観た夢が/本当になるのなら/ぼくはたぶんもうすぐ/死ぬのかもね」となんとも素っ気なく朗読する "ゴンドラの歌"(原曲:"華麗なる招待")はゾクゾクせずに聴けません。

それにしても、小西の書く曲は歌い手の巧さよりも、震えやズレ、不器用さを際立たせるのですね。このアルバムを聴いていると、歌い手がマイクを前に一人、メロディに真向かっているというような緊張感を感じます。聴き手にさらっと聞き流すことを許さない、パーティにも作業用BGMにも向かないアルバムです。

 

 

26.カーネーション『Suburban Baroque』(2017)

Suburban Baroque

Suburban Baroque

  • 発売日: 2017/09/13
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大森靖子のプロデュースや、スカートやカメラ=万年筆のメンバーのラブコールによって、2013年頃から存在感が再びぐっと増したカーネーション。2016年にリリースされた『Multimodal Sentiment』はアフロファンクからシューゲイザーまでを取り込み、歌詞も彼ら流のキャッチーなユーモアに溢れ、カーネーション健在を裏付けた傑作でした。それに比べると本作は、オーソドックスなロックのサウンドにまとまった一見シブい内容ですが、じんわりと沁みるアルバムです。

「時間ばかりが過ぎてゆく/じれったさや情けなさ/消す事のできない感情ばかり/灼けた砂が吹き抜ける/この世界 この未来/変りゆくものすべて見届けようぜ」。1曲目 "Shooting Star" のこのフレーズがアルバム全体のモードをよく表していると思うのですが、60近いシンガーが戸惑いを抱えながら生きていくことを歌っているのには希望を与えられます。

 

 

25.ZAZEN BOYS『すとーりーず』(2012)

すとーりーず

すとーりーず

  • 発売日: 2012/09/05
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ナンバーガール時代からのテーマであったサウンドの鋭利さを前作『ZAZEN BOYS 4』で一つのピークへと到達させた向井秀徳が、本作で突き詰めたのは「ユーモア」だったのではないかと思います。「ボウルに一杯のポテトサラダが喰いてえ」など向井ファンのハートを瞬時にキャッチした歌詞はもちろんのこと、どの曲のリフも鋭角でありながらどこか間が抜けています。「計算された間抜けさ」という点で、よく比較対象となるキャプテン・ビーフハートの『トラウト・マスク・レプリカ』も彷彿とさせます。

そして、『4』までの特徴であった向井のファルセットがやや抑えられたこと、「はあとぶれいく」などで聴かれる、ナンバーガール時代を彷彿とさせるシンプルなストロークからなるギターリフが、これまで抑制されていた温かみを感じさせます。2012年のこの作品がいまのところ彼らの最新アルバムとなっているのですが、今後この方向性をどのように展開させるのか楽しみです。

 

 

24.曽我部恵一『ヘブン』(2018)

ヘブン

ヘブン

  • 発売日: 2018/12/07
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ヒップホップを大胆に取り入れてファンを戸惑わせたサニーデイ・サービス名義のカオスなアルバム『the CITY』から9か月弱でリリース(『There is no place like Tokyo today!』と同時発表。この多作ぶりは本当にすごい!)。『the CITY』以上に「ヒップホップのアルバム」で、無機質なトラックに乗せて曽我部自身がラップしています。

ロック系のミュージシャンがヒップホップを取り入れることはよくありますが、自らアルバムの全曲でラップをするということはあまりありません。これはヒップホップがスキルを求められ、どちらかといえば排他的な文化圏を築いているという理由があるのかもしれません。しかしヒップホップ側に何らかの変化が起き、曽我部はそれを敏感に察知したのではないでしょうか(付言すると、彼のラップはレイドバックしたものですが、非-ヒップホップ畑のミュージシャンとしては驚くほどちゃんとしたものです)。

曽我部のラップは、「のし上がってやる」というようなステレオタイプなマッチョなラップではなく、何気ない生活をちょっとシュールに切り取ったような内容です。そういうところも、ヒップホップ側の変化を受けている気がします。

 

 

23.小田朋美『シャーマン狩り』(2013)

シャーマン狩り -Go Gunning For Shaman-

シャーマン狩り -Go Gunning For Shaman-

  • 発売日: 2013/12/04
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dCprGにCRCK/LCKS、FINAL SPANK HAPPY、またceroでの客演など、二人か三人いるんじゃないの?と言いたくなるほどの活躍を見せている小田朋美のデビュー作。いま挙げたアクトでも見せるジャズ的な演奏はもちろんのこと、彼女のルーツであるクラシックや現代音楽のエッセンスを濃厚に感じさせます。

このアルバムに限らず、彼女はカバーや既存の近現代詩に曲をつけることを得意としています。M1はPerfume、M5は小池玉緒、M6はSPANK HAPPYの、原曲を活かした良カバー。M2とM3は宮澤賢治、M4は谷川俊太郎、M9は寺山修司の詩に曲をつけていて、「ああ、日本語の詩ってロックよりこういうのの方が綺麗に乗るのだなあ」という発見があります。詩の中に「風」や「雨」というフレーズが何度か現れるのですが、ヴァイオリンやチェロとピアノの音色がそれらのアナロジーに感じられて、なんだか天気の悪い日に聴きたくなります。

小田自身が作詞しているのはM8のみなのですが、これはこれでかなり良い。詩を曲をつける行為からインスピレーションを受けるのか、この後徐々に自ら作詞するようになるのですが、次作『グッバイブルー』に収められた「マリーアントワネットのうた」なんかすごく良いです。

 

 

22.シャムキャッツ 『AFTER HOURS』(2014)

AFTER HOURS

AFTER HOURS

  • 発売日: 2014/03/19
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前作『たからじま』のUSオルタナ的破天荒さから、ネオアコ的なファンキーで爽やかなサウンドにぐっと寄った3rd。ある曲のリフではもろにOrange Juice「Rip It Up」へのオマージュを捧げていたりします。それにしても、2010年代インディポップが80年代ネオアコから受けた影響って本当に大きいんじゃないでしょうか。そこには「単純に良い曲を作ること」への回帰を感じるのですが、この『AFTER HOURS』に関しては、うねうねと動くベースがロックバンドらしいドライブ感を加えてくれていて最高です。

歌詞も、それまでの「男子どものワイワイ騒ぎ」なノリから、都市を生きる人々を優しく俯瞰するようなスタイルへと明確な変化を遂げています。以降もバンドはアルバムごとに貪欲にスタイルを更新していますが、この『AFTER HOURS』が詞・曲ともにターニング・ポイントになったという印象を受けます。

 

 

21.台風クラブ『初期の台風クラブ』(2017)

初期の台風クラブ

初期の台風クラブ

  • 発売日: 2018/05/16
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彼らをはじめて聴いたときの「これだよこれ!!」という感覚は忘れられません。粘っこいボーカル、ソリッドなギター、バタバタしたドラム……日本の熱く湿った夏の空気を閉じ込めたようなサウンド。それでいて、Aztec Cameraへのオマージュがうかがえる「ついのすみか」など、適度に黒さを感じさせるコード感もいい。歌詞も情けなさと喪失感に満ちていて最高です。しばしばThe ピーズに喩えられるのもその辺が理由でしょうか。

一番のアンセムと言えるのはやはり「飛・び・た・い」でしょう。激エモのイントロを抜けて、歌入りの「エレキギターにも飽きて/部屋でしれっとしてるよ」という歌詞がもう良い。映像的ですし、「しれっとしてる」というワードチョイスが絶妙ですよね。

 

 

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