2010年代邦楽フェイバリットアルバム50【50~36位】

およそ半年ぶりの更新となってしまいました。

ほんといきなりですが、2010〜19年の10年間に発売された日本の音楽アルバムのうち、良かったな、よく聴いたなというものをランキング形式で50枚挙げていきたいと思います。一枚一枚コメントもつけていきます(上位はやや長め)。なお、アーティスト一組につき一枚、オリジナルアルバムに限定(epサイズのものやコンピ盤は除外)しました。

 個人的に、仕事を休んで音楽をじっくり聴く余裕ができたというのと、自分が音楽を聴くときどういうポイントに注目しているのか、文章化することで炙り出したいなという気持ちがあったので、ちょっと時間をかけて作ってみました。

長いので4記事分に分割します。それから、 今回急にですます調になりましたがあまり気にせず……。

それでは50位からいってみましょ〜。

 

 

50.ウワノソラ『ウワノソラ』(2014)

ウワノソラ

ウワノソラ

  • 発売日: 2014/08/20
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再評価著しいSUGAR BABE大貫妙子の音楽のエッセンスを2010年代で最もよく研究し、現代によみがえらせたバンドではないでしょうか。しかし、現代のシティポップは同時代のヒップホップやR&Bと関連の深いムーヴメントであり、そういう意味でウワノソラはムーヴメントの中心からちょっと離れたバンドとも言えるのが面白いところ。

ところで、Amazonなどでレビューを見ると、ボーカルのいえもとめぐみの歌唱力が足りないという批判がいくつか見られます。確かに彼女はちょっと幼い感じの歌い方をするのですが、筆者はむしろ現代的でいいなとさえ感じます。ここに70年代のニューミュージックをリアルタイムで聴いてきた人々と筆者のような比較的若い世代との、女性ボーカルについての感覚の違いが感じられて面白いです。

 

 

49.神聖かまってちゃん『友だちを殺してまで。』(2010)

友だちを殺してまで。

友だちを殺してまで。

  • 発売日: 2010/03/10
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前の世代のロックバンドたちが歌っていた苦悩ややるせなさといったものは、なんと綺麗に整った、なんとジョック的なものだったのか、という情けない(しかも真剣さのある)歌。一方で、"ぺんてる" などには思わず手を止めて聴いてしまうような詩的さがあります。いかにもプリセット音源という感じのキーボードや、ピッチを変えた歌を何重にも重ねてウォール・オブ・サウンドを作るという発想は、一回きりの裏技という感じでまさにパンク。

神聖かまってちゃん相対性理論はともに偶然2010年前後に登場しましたが、10年区切りで日本のポピュラー音楽を考えるとき、この2組ほどの良い指標はないのではないでしょうか。

 

48.JINTANA&EMERALDS『Destiny』(2014)

DESTINY

DESTINY

  • 発売日: 2014/04/23
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アーバン&メロウ集団PAN PACIFIC PLAYA所属のスティールギタリスト、JINTANAを中心に、一十三十一など3人の女性ボーカリストを擁する6人組バンドが、現在のところ唯一リリースしたアルバム。50~60年代のドゥーワップガールポップを再構築していた楽園的なポップスなのですが、これがときにゾッとするほど退廃的な顔をのぞかせます。中盤など魂を持っていかれそうなサイケデリアがあり、ヴェルヴェッツやマイブラさえ想起させます(なお、M4 "I Hear a New World" は1960年にジョー・ミークによりリリースされた最初期のエクスペリメンタル・ポップのカバー)。

みんながすました顔で聴いている「アーバン・ポップ」の本質を突く、かなり批評的なアルバムなのでは?

 

 

47.二階堂和美『にじみ』(2011)

にじみ

にじみ

 

2010年代の一つの特徴として、「民謡など、ロック以前の音楽への参照」があると言えるでしょう。2000年代にも、特にポストロックの文脈の中でその種は撒かれていたと思うのですが、もっとストレートな形で表現したという点で歴史的なアルバムが本作ではないでしょうか。

筆者が二階堂和美の名を知ったのはeastern youthによる企画盤『極東最前線 2』(2008)に収録された "あなたと歩くの" によってなのですが、冒頭から始まる素っ頓狂なスキャットのためか、とんでもなくアングラな音楽として認知してしまいました。一方、『にじみ』に収録されたバージョンの "あなたと歩くの" は、スティールパンのポップな響きのおかげもあって、もっととっつきやすく感じられます。このアレンジの違いに象徴されるように、彼女の音楽がより広いリスナーに開かれることとなった名盤だと思います。

 

 

46.入江陽『仕事』(2015)

仕事

仕事

  • 発売日: 2015/01/07
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最近、BOMIとのコラボや本日休演、さとうもかのアルバムプロデュースなどますます存在感を増している入江陽。ネオソウル的にタメを作りながら、多彩な音を重ね合わせてキュートな密室ポップに仕上がっています。緊張感のある曲調に「お寿司を食べて顔を拭いたら朝だよ」なんて脱力感(そして生活感)のある歌詞が乗るのは、井上陽水、あるいは向井秀徳も思い起こさせます。さらにはこの人、歌がめちゃくちゃ良いですよね。ソウルフルなんだけどおどけていて……。

個人的に、以前はライブで見せるネオソウル直系の生っぽいアレンジの方がかっこいいと思っていたのですが、前述したほかのアーティストとの仕事を聴いた耳で聴き返したところ、こんなに良いアルバムだったのかと驚かされました。

 

 

45.ナツノムジナ『淼のすみか』(2017)

淼のすみか

淼のすみか

  • 発売日: 2017/09/06
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シューゲイザー的なサウンドスケープXTC並みに聴き手の予測を裏切ってくるメロディ、朴訥としてエモーショナルな歌声。それぞれ要素を言葉にしていくと2000年代以降の邦ロックのクリシェのようですが、組み合わさると「こんなことがまだできたのか」という新鮮さを感じます。

田淵ひさ子のフックアップで知名度を高めた彼らですが、bloodthirsty butchersに通ずるようなやるせなさがあるのもポイントでしょうか。"凪" とか泣けますよ。夏の午後、とぼとぼと歩きながら聴きたいアルバムです。

 

 

44.平賀さち枝『まっしろな気持ちで会いにいくだけ』(2017)

まっしろな気持ちで会いに行くだけ

まっしろな気持ちで会いに行くだけ

  • 発売日: 2017/09/20
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Homecomingsや笹口騒音ハーモニカなど様々なアーティストとの共演を経て、久々にリリースされた2ndフル。弾き語りがメインだった初期に比べ、ソングライティングもアレンジもずいぶん幅が出ています(もっとも『23歳』の "パレード" などに徴候はありましたが)。

歌詞の面では「幸せもこわくない」("10月のひと")なんて前向きなフレーズが目立ち、"My Boyfriend, see you" や "虹"(Negiccoへの提供曲のセルフカバー)のような別れを歌った曲でもからっとした明るさがあります。それに伴ってか、歌い方には甘えるようなコケティッシュな響きが出てきました。そう言うと以前の魅力であった孤独な雰囲気が消えてしまったかのようですが、これまでよりちょっと捻ったコード進行がどこか寂しげな、あるいは少し照れたような彩りを加えていて、個人的にはすごく良いアップデートではないかと思います。

 

 

43.けもの『めたもるシティ』(2017)

めたもるシティ

めたもるシティ

  • 発売日: 2017/07/19
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どうやら筆者は、いかにもモード的なシティポップよりも、ちょっとパロディの入ったシティポップの方が好みのようです。菊地成孔プロデュースの本作は、70~80年代ニューミュージックへのオマージュを感じさせつつ、たとえばM6 "めたもるセブン" で歌われるのは「幸せになりたい/オリンピック開催まで/時間がない」という現代の東京を生きる人間の気持ち。M8 "伊勢丹中心世界" はより複雑で、現代にありながらレトロな空間としてのデパートが描かれています。

本作は、菊地とデュエットする「第六感コンピューター」や人を食ったようなナレーションで始まる「フィッシュ京子ちゃんのテーマB めたもver.」など、SPANK HAPPYを思わせるユーモアに満ちています。とはいえ、ここに菊地ほど人を食ったような感じはありません。シティポップというガジェットを使って、優しい目線で普遍的な愛や孤独、そして変身願望を歌ったアルバムと言えるでしょう。

 

 

42.竹達彩奈Apple Symphony』(2013) 

apple symphony

apple symphony

  • 発売日: 2013/04/10
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年始に「ドラマチックマーケットライド」「スタッカート・デイズ」といった名曲が生まれ、2月には花澤香菜の1stアルバムが発売されて、一部の音楽オタクが「アキシブ系」に盛り上がっていた2013年。竹達の1stアルバムも渋谷系的な洒脱なプロダクションになるのではないかと注目が集まりました。

ところが発売当日、その予想は再生して2曲目「ライスとぅミートゅー」で裏切られます。「アイ ラブ ビーフ!/アイ ラブ ポーク!」というおふざけコール&レスポンスとともに始まるこの曲は、過剰なほどに重ねられたピアノにストリングス、これでもかと泣かせるメロディ、そして竹達のロリータボイスで聴き手をとんでもない多幸感に包み込む大名曲。ほかにも多彩な曲が収められていますが、トータルでナイアガラ・サウンドパワーポップ化させたような感じに仕上がっていました。渋谷系のマニアックさはあまりありませんが、より広いリスナーに開かれつつ、音楽オタクをも唸らせるアイドルポップ・アルバムです。

 

 

41.牧野由依『タビノオト』(2015)

タビノオト

タビノオト

  • 発売日: 2015/10/07
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牧野由依はどのアルバムにも名曲が入っているのですが、今のところトータルではこの4thが最高傑作だと思います。本作で初めてプロデュースを担当した矢野博康(ex. Cymbals)の曲をはじめとする渋谷系風ポップスと、お家芸としてきた「民族音楽風のメロディ×ポストロック風のサウンド」な楽曲(菅野よう子梶浦由記ZABADAK伊藤真澄コトリンゴというラインが引けるでしょうか。本作ではコトリンゴが参加しています)が並んでいます。

キーになっているのは、声優ソングを多く手掛ける川田瑠夏が手掛けたM3 "囁きは"Crescendo""でしょうか。硬質な打ち込みリズムにキャッチーなストリングスが乗るこの曲が序盤に入っていることで、両方の音楽性がスムーズに共存できている気がします。

 

 

40.C.O.S.A. × KID FRESINO『Somewhere』(2016)

Somewhere

Somewhere

  • 発売日: 2016/07/20
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若手ラッパー二人によるコラボアルバム。筆者はヒップホップにあまり明るくなく、特にC.O.S.A.についてはほとんど知らない状態で聴いているのですが、声質の異なる二人のラップの絡みが気持ちいいです。KID FRESINOというとちょっとスカしたラップのイメージですが、C.O.S.A.の一音一音吐き出すようなラップにつられるようにして、普段より力強く発音しているのがまた趣深い。

何より本作、トラックが良いです。OMSBがプロデュースしたハードな「KDFS × COSA」から、スティールギター響き渡るブルージーな「Route」まで実に多彩。特にKID FRESINOの盟友、JJJがプロデュースした3曲はいずれもメロウな感じで心地よく、ジャズ風の「Swing at somewhere」でのコトリンゴのフィーチャーも面白いです。個人的に、このアルバムから広げるようにして最近のヒップホップ・アルバムを聴いてみています。

 

 

39.相対性理論シンクロニシティーン』(2010)

シンクロニシティーン

シンクロニシティーン

  • 発売日: 2016/10/25
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相対性理論の登場は、「rockin’on」誌系統のバンドを中心に聴いていた筆者が持っていた「かっこいいサウンドにはシリアスな歌詞が乗るものだ」という先入観をぶち壊してくれました。この「脱臼」のおかげで、かっこいい音楽をやることのハードルって一気に上がった気がします。なにせこんなかっこいいバンドが「わたしもうやめた 世界征服やめた/今日のごはん 考えるのでせいいっぱい」と歌ってしまっているのですから(前のアルバムの曲ですが)。

1stアルバム『シフォン主義』の頃のインディバンドらしい荒々しさは、本作では「気になるあの娘」くらいにしか残っていません。やくしまるえつこのボーカルも以前よりコケティッシュになりました。前作『ハイファイ新書』と比べるとシンセサイザーは後退し、リヴァーヴも控えめ。結果として、永井聖一のキレのあるギターが最も味わえるアルバムではないでしょうか。

 

 

38.早見沙織『JUNCTION』(2018)

早見沙織/JUNCTION (通常盤 CD/1枚組)

早見沙織/JUNCTION (通常盤 CD/1枚組)

  • アーティスト:早見沙織
  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日: 2018/12/19
  • メディア: CD
 
最も優れたアニメソングとは、アニメの物語を、それを観る私たちの物語であるように信じさせる歌ではないでしょうか。というのは、本作に収録されている "Jewelry" から逆算して考えたテーゼなのですが。

"Jewelry" はアニメ「カードキャプターさくら」の18年越しの続編「クリアカード編」のエンディングテーマ。いまは大人になってしまったけれど、かつて憧れたものに勇気をもらって歩んでいける、という内容が、子供の頃「CCさくら」を観た視聴者の心に寄り添います。それだけでもよくできているのですが、筆者は2番Bメロの「もう大人に終わりはないけれど/宝物は増えていく」というラインが涙なしには聴けません。子供の頃のように未来を夢見ることはもはやできない。けれど、一度完結した物語の続きを生きるアニメの主人公たちのように、私たちも宝物のような人生の軌跡を描きつづけられるはず。アニメ声優でありつつ、こんな希望に満ちたアニメソングを書いてしまう早見沙織にはもう信頼しかありません。

さて、『JUNCTION』はこの曲以外にも、早見自身が作詞・作曲した曲が多く収録されています。そのいずれも、竹内まりや(本作でも2曲提供曲)、中森明菜広瀬香美……なんて名前が連想されるような、ちょっとソウルの入った古き良き歌謡曲~J-Popなのです。"夏目と寂寥" "Bleu Noir"、必聴ですよ。

 

 

37.おとぎ話『BIG BANG ATTACK』(2011)

BIG BANG ATTACK

BIG BANG ATTACK

  • 発売日: 2019/01/25
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2010年前後くらいに、ガレージっぽいロックバンドのブームがありました。ザ50回転ズ毛皮のマリーズTHE BAWDIES黒猫チェルシーandymori、OKAMOTO'S、踊ってばかりの国……。おとぎ話は、その中でも初期フレーミング・リップスにも通ずるようなサイケデリックサウンドが特徴で好きなバンドです。本作は特にトータルアルバムとして作り込まれている印象で、ロスジェネ世代のやるせない青春を歌う彼らのイメージ通りの曲から、自主規制にまみれた世情を皮肉る "This is just a Healing Song" のような曲まで、彼らの一筋縄でいかなさが表れているアルバムです。

おとぎ話は代表格だと思うのですが、これらのバンドの多くに共通するボーカルスタイルがあります。喉を閉めてフラットに発音するような、といえばよいのでしょうか。スネ夫っぽいと言うとわかりやすいかもしれません。ルーツがどこにあるのかよくわからないのですが(坂本慎太郎とどんとと早川義夫?)、悲哀がありつつも楽天的で、シリアスな歌が多かった「ロキノン系」ブームから何か時代が変わったな、と当時感じたのでした。

 

 

36.細野晴臣『HoSoNoVa』(2011)

HoSoNoVa

HoSoNoVa

  • 発売日: 2013/03/21
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2010年代は細野晴臣が再び大きな影響力をもったタームでした。本作は2007年のYMO再結成あたりから再び存在感を増していた彼が満を持してリリースした、久々のソロ名義のアルバム。戦前~50年代のポップスのカバーを中心に構成されています。彼が自ら歌うことは賛否両論ありますが、うますぎないことでポップスになっているという感じがします。なんだかんだ記名性がある声だし、それがあることで「細野晴臣の作品」にあるということを本人がよくわかっているのでしょう。

M5 "ただいま" は星野源に提供した曲のセルフカバー。チェロが同じ音を引き続ける原曲とはかけ離れたアレンジになっており、サイケでさえあります。個人的にはこの曲がフェイバリット・トラックです。

 

続き↓

 

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