ちびまる子ちゃん わたしの好きなうた

ちびまる子ちゃん わたしの好きなうた』を見た。1992年の作品だが、DVD化されていないらしいため、見るのが難しかった。アニマックスに感謝。

ストーリーは、いつも通りのコメディに加えて、最後にほろりとできるもの。それだけでも、劇場アニメらしい豊かな芝居や温かみのある背景美術と併せて楽しめる(この辺は後述する)。だが、なんといっても特筆すべきはいくつか挿入される音楽パートだろう。

このアニメでは、原作者さくらももこが『ファンタジア』や『イエローサブマリン』に言及しているように、途中で音楽とそのイメージ映像が挿入される。まずその選曲がいい。大滝詠一「1969年のドラッグ・レース」、たま「星を食べる」など、TV版のOP・EDとも関わりあるアーティストもいて、おそらくはさくらの趣味なのだろう。「ヒロシの入浴」「B級ダンシング」というオリジナル曲もある。特に「B級ダンシング」はビートルズパロ満載で耳に残る(作曲はなんと『NIAGARA TRIANGLE Vol.2』に参加し、「ウイスキーが、お好きでしょ」などでも知られる杉真理だ)。

これらの音楽パートは、アニメーションとしても素晴らしい。本作の監督であり、ルパン三世の蟹股歩きを作ったともいわれるベテランアニメーター・芝山努の手掛けたパートもある。だが、特に有名なのは湯浅政明が手掛けた「1969年のドラッグ・レース」「買い物ブギ」(笠置シヅ子)の、サイケデリックともいえるパート。湯浅政明は、TV版のOP・EDも手掛けているが、『クレヨンしんちゃん』の劇場版の設計デザインやアクションシーンの作画でよく知られている。最近でいえば『四畳半神話大系』『ピンポン THE ANIMATION』の監督を務め、『スペース☆ダンディ』第16話「急がば回るのがオレじゃんよ」に参加している。「1969年のドラッグ・レース」で、ロールスロイスのタイヤが伸び、ロボットのように歩き出すという発想はなんとも湯浅らしい。

ところで、90年代初頭に始まった『ちびまる子ちゃん』と『クレヨンしんちゃん』には共通項がある。それは3頭身のキャラクターと、あまりキチンとしていない背景である。直前に放映開始し、現代日本を舞台にしたコメディアニメは、『キテレツ大百科』にしろ『らんま1/2』にしろ『まじかる☆タルるートくん』にしろ、もう少し「キチンと製図されている」印象を受けるのだがどうだろう。「絵っぽさ」の復権とでもいうか。80年代を通して、『ガンダム』に代表されるような緻密な設定と描写が流行し、ロリコンブームのようにフェチ的な消費が加速して、アニメが大人向けのものになっていたことへの反動なのだろうか。

ちびまる子ちゃん』は、第1話から野村可南子が美術監督を務めている。この方は初期の『忍たま乱太郎』でも美術を務めており、やはりふにゃっとした感触を出しているが、ネットにはあまり情報がない(『忍たま』は『ちびまる子ちゃん』と同じく亜細亜堂が関わっており、スタッフもかなり被っている)。

『わたしの好きなうた』の美術も野村氏がクレジットされているが、静岡の街並みや水族館が本当に美しく、TV版以上だ。派手な音楽パートとは対照的に作品に温かみを持たせていて、本作の見どころの一つだと思う。(画像は『わたしの好きなうた』の下敷きの図面)

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